リバネスユニバーシティープロフェッサー紹介③面白いことを掛け合わせて遊んだ先に、異分野融合がある
2021.11.30
面白いことを掛け合わせて遊んだ先に、異分野融合がある
山崎詩郎氏
東京工業大学 理学院 物理学系 助教
走査プローブ顕微鏡を用いた量子物性物理学を専門に研究をする傍ら、「コマ博士」として物理学と遊びを組み合わせた「コマ科学実験教室」や「こどもコマ大戦」を実施してきた山崎詩郎氏。さらに自身も大好きな映画『インターステラー』を題材に相対性理論などの視点から映画に登場するシーンを考察するプログラムを100回以上実施。それが2020年に公開された映画『TENET テネット』の字幕科学監修という大きな挑戦につながった。「科学の世界にいざなう」いわゆるサイエンスコミュニケーションの考え方とは少し異なり「遊びの中に科学を持ち込む」というコンセプトが山崎氏の特徴だ。
ここは「科学を伝える活動」を研究にできる場所
普段は大学での研究に力を注いでいますので、科学を伝える活動はあくまでも個人的に、休みの時間を使ってやってきました。もちろんその活動に興味を持って協力してくれる仲間はたくさんいるのですが、どうしても単発のイベントごとが起点となってしまいます。常々、大学の研究室で行っている卒業研究のように、テーマを立てて長期的な視点で企画を仕掛けたり、ロジックを組み立てたりといった取り組みをしてみたいと考えていました。大学に提案してみたこともありますが、現状の大学の中ではなかなか実現は難しい。今回リバネスユニバーシティーの話を頂いた時、ここでなら「科学を伝える活動」も研究できると思ったのが、参加を決めた大きな理由です。
好奇心ドライブでまずはやってみる姿勢を
私が科学の道に進む、大きな後押しとなったのは、アメリカの天文学者であるカール・セーガンの著書「COSMOS」や学校の参加型授業、サイエンスキャンプといった経験です。研究者として仕事をするようになった今、当時そのようなきっかけをくれた人たちへの恩返しの思いもあって科学を伝える活動を始めました。
活動を始めたときに、教育現場への貢献や研究の発展といった、ビジョンや課題意識があったわけではありません。私が研究している分野は量子力学ですが、量子力学に限らず多くの理学研究は「この課題を解決したい」という思考が出発点ではなく、宇宙はきっと美しい法則によって成り立っているはずだという思い込みや好奇心から生まれています。課題解決型の思考も重要ですが「好奇心ドライブ」の方が早く進むこともあるのだと思います。そういった思いもあって、私の活動は「なんのために」ではなく「おもしろそうだから」が常に出発点になってます。
誰かの「面白いこと」の中に科学を出前する
「科学をわかりやすく魅力的に伝えるにはどうしたらいいか」を考えた結果、科学を面白くする方法を考えるより、誰かが面白いと思っているものに科学を持ち込んだ方が早いと思い至りました。映画『インターステラー』を使った企画は、仲間内での「映画を解説しながら物理を話してみたらどうだろう」という雑談から、10人くらい友達を集めて2時間講演・4時間質疑応答という会を開催したのがスタートです。好評を受けて何度も開催しているうちに、ワーナー・ブラザーズの方の目に留まり、活動の幅が一気に広がりました。他にも、写真家の方や、CGデザイナーのコミュニティーの方に数学と写真の構図について話す機会もいただきまましたが、それも面白かったですね。
リバネスユニバーシティーは研究者に限らず多様な業界の人材が集結する場所になるはずです。それぞれのコミュニティーの中に「科学から挨拶して仲間に入れてもらう」そんな視点で科学を伝える活動を企画していきたいですね。教材や書籍など形は何でも構いませんが、きちんと世に出して認知してもらうところまでやってはじめて、そのコミュニティーとの融合ができたと言えると思います。そんな挑戦をしてくれる仲間を待っています。