リバネスユニバーシティーコンテンツ損保ジャパン・白川儀一氏×リバネス井上浄「継承される想いと学び方を伝えることが次代の土台を作る」

損保ジャパン・白川儀一氏×リバネス井上浄「継承される想いと学び方を伝えることが次代の土台を作る」

2022.02.27

創業133年目を迎える損害保険ジャパン株式会社。5つの損害保険会社がそれぞれのDNAをもち合わせて統合した同社では、持ち株会社にあたるSOMPOホールディングス株式会社と連携しながら、保険業以外の事業展開にも注力している。2020年に完全オンライン社内大学を始め、人材育成にも大きく力を入れ始めている。損害保険ジャパン株式会社取締役執行役員(2021年3月当時)の白川儀一氏に、事業展開や人材育成に込めた想いについて伺った。 ※本記事は2021年3月発行「人材応援」vol.16に掲載されたものです。

お客さまのそばに常にある、安心・安全・健康のテーマパークを作る

井上 白川さんとの出会いは2018年3月に慶応大学先端生命科学研究所に損保ジャパン日本興亜ビジネスラボ鶴岡(現:損保ジャパンビジネスラボ鶴岡)を新設された頃にさかのぼります。このラボ設立に代表されるように、SOMPOグループはモビリティやヘルスケアに関する先端技術を用いた新事業を探索されています。今、どうして新しい事業への転換を進められるのでしょうか。

白川 SOMPOグループの中核事業である損害保険事業は、お客さまが不幸にも事故や災害にあわれた際に保険金をお支払いするという事業です。しかし、この事業では長年、ご不幸があったときにしかお客さまとの関わり合いがないことが課題でした。例えば、自動車保険に加入しても、事故にあわなければ、保険会社との接点は契約更新の時ぐらいですよね。

井上 確かに保険会社の方とコミュニケーションする機会は少ない印象があります。

白川 損害保険事業はお客さまのいざという時の安心のために始まりましたが、お客さまとの接点があまりにも少なすぎました。ではどのように日常的な接点を作ってお客さまに寄り添っていくかを考えたとき、いざという時の安心に加え、お客さまの「安全でいたい。健康でいたい。」という根源的な想いに応える存在になりたいと考えました。

そこで「私どもSOMPOグループのソリューションを自在に組み合わせることで、平時でもさまざまな安心・安全・健康のサービスが受けられる」という、お客さま一人ひとりにとっての「テーマパーク」のような存在となる構想が浮かびました。この構想をもとに新たなサービスを生み出しております。

その一例が、通信機能付きのドライブレコーダーを活用したサービスです。ドライブレコーダーで常にお客さまと繋がることで、万が一の事故発生時にはドライブレコーダーが衝撃を感知し、当社へ事故通知されるだけではなく、通常運転時にはドライバーへの安全運転をサポートするなど、安心・安全のサービスを実現しています。


白川儀一氏 損害保険ジャパン株式会社取締役執行役員/立命館大産業社会卒、1993年安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)入社。営業が長く、ベンチャーから大企業・アカデミアまで幅広い人脈を持つ。2017年秘書部特命部長、同年ビジネスクリエーション部長、2019年執行役員経営企画部長を経て、2020年取締役執行役員に就任。現在は新規事業、個人分野の商品開発、広報、CSR、コールセンター、保険事務関連部門を所管している。

技術の進歩により増大する危機感

井上 このような新しい事業や顧客接点を強化したサービス提供への転換は急激に進んだのでしょうか?


井上浄 株式会社リバネス代表取締役副社長CTO/東京薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了、博士(薬学)、薬剤師。リバネス創業メンバー。博士課程を修了後、北里大学理学部生物科学科助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年8月より慶應義塾大学特任准教授に就任(兼務)。2018年4月より熊本大学薬学部先端薬学教授も兼任。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等を担っている。

白川 お客さまとの接点をつくるという発想や取り組みは昔からありましたが、技術革新による社会の変化が大きなきっかけです。例えば、私が入社した1993年、自動運転は技術的に確立されておりませんでしたが、年を追うごとに現実味を帯びてきています。私たちの損害保険商品の収入保険料の半分は自動車保険ですので、自動運転によって事故がない世界になれば、既存の商売は成立しなくなります。

井上 技術が進歩することで変化する社会にビジネスモデルが追いつかなくなってきたのですね。

白川 技術の進歩で言えば他にもGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4社の総称)に代表されるプラットフォーマーの台頭もあります。

インターネットも1990年代は限られた人のものでしたが、もはや当たり前のものとなりました。彼らは常にサービス利用者と繋がっており、そこから多くのデータを手に入れることができます。プラットフォーマーたちが自ら保険会社をもち、毎日接点がある中に保険が組み込まれると、当社としてはビジネス面で大きな危機となります。

そういった背景も踏まえ、社会課題を解決するような安心・安全・健康に資する最高品質の商品・サービスを提供することで、お客さまと多くの接点を持つように変わらなければと思ったのです。また、GAFA等とは異なり、SOMPOグループで展開する保険や介護など各種事業を通して得られたリアルデータを活かすことで、お客さまの求めるさらなるサービス提供が可能になり、より一層の顧客接点強化が実現できると考えております。

新しい技術と接点をもち、お客さまとの関わりを増やす

井上 社会が大きく変わり、保険事業そのものに危機感がある。そのような中で、私たちと一緒に、今まで接点がなかった研究者や技術系ベンチャーとの協業の模索が始まりました。なぜ技術系の人たちとの協業だったのでしょうか。

白川 技術の進歩によって、社会や産業構造が大きく変わる状況において、これまでの損害保険のビジネスや枠組みに捕われずに、どうしたらもっと社会の課題解決に貢献できるのかを考えました。先端科学技術を用いれば、病気の予防や事故を防ぐという段階からお客さまと接点を持ち課題解決に貢献ができると考えたのです。

井上 2018年には遺伝子解析ベンチャー(株式会社レリクサ)、2019年には睡眠状態を分析するベンチャー(株式会社ニューロスペース)と業務提携をしてきました。2020年には環境ベンチャー(サステイナブルエネルギー開発株式会社)との協業も始まりましたね。

白川 ヘルスケアベンチャーとの協業は、病気を予防できるソリューション提供によって健康に暮らすことができるサービス展開が可能となります。環境ベンチャーとの協業は、自然災害への事後対応を見据えています。

私たちの保険商品には火災保険があります。現代では火事で家が燃えることは減ってきましたが、台風や地震などの自然災害の被害は増加・甚大化傾向となっています。保険会社の本来的役割である保険金のお支払いだけでなく、災害により大量に発生し処理が課題となっている災害ゴミの問題についても対処できないかと考えました。

災害ゴミを焼却処理することで二酸化炭素の発生源にするのではなく、エネルギーとして再利用できればより安心・安全ですよね。いずれも、社会課題を解決しながら、安心・安全・健康のテーマパークの1つとしてお客さまと接点を増やす取り組みに繋がります。

仕事を通じて学ぶことで、社員の人間的な成長を促す

井上 新しい技術を導入することで、これまでの保険事業を幹として、健康や環境などの今ある社会課題に、さまざまな貢献ができる可能性が見えているのですね。そうなると、新たな事業を作り育てていく人が必要ではないでしょうか。

白川 おっしゃるとおりです。もともと、保険会社は目に見える商品を売っているわけではないので、お客さまは信頼できる人から保険商品を買います。したがって、当社の一番の財産は人材だと考えています。

信頼には様々な意味があり、幅広い見識は信頼に繋がる手段の1つかもしれないですよね。人柄や知識を含めて総合的な人材の成長は、目に見えないものを売っている以上、必要だと思います。加えて、新しい事業を作っていける、ビジネスの「目利き」のような力も必要です。

井上 社会の変化に合わせて、どのような人材育成をされているのでしょうか。

白川 損害保険という業界は、どこの保険会社で保険に加入しても保険料や商品の中身は全て同じという「護送船団方式」と呼ばれていた時代が続きました。金融ビッグバン以降、自由化が進みましたが、現在でも保険商品は、各社間でそう大きな差はないものを販売しています。

したがって、この業界には変化することに慣れていない人も多い。そういった中でも、先ほど申し上げたとおり、お客さまとの接点を増やしていくためには、前向きに変化していくことを幸せと捉えられることが必要だと考えたのです。

そこで、2020年10月から、オンライン企業内大学「損保ジャパン大学」を設立しました。全社員が組織の枠を超えてオンラインで学べる仕組みや日常業務では習得が難しい分野の学びの場、社内の学習メニューを集約したプラットフォームを作りました。

1日の多くの時間を仕事に費やしておりますが、その仕事を通して学ぶことができれば、働き甲斐が生まれ、新しい知識を得ることでイノベーションが生まれる。学ぶことを通じて社員は幸せを感じ、会社は成長していくのです。この仕事から「学ぶ」文化を浸透させるために、まずは誰にでも広く学ぶ機会を提供することが重要だと思いました。

正解を教えるのではなく、進化する土壌を得る

井上 損保ジャパン大学ではどのようなことを学ぶのでしょうか。

白川 我々役員が、過去から現在まで大切にしてきた思いや将来に向けてどのように考えているかを伝え、社員と双方向でコミュニケーションするオンライン講座や、営業向けであれば単なる商品販売手法のみならず、開発した商品に対する思いやコンセプトを学ぶ機会などがあります。

これまでの営業現場では、商品をお客さまにどうお届けするかを考えるときに、拠り所となるのは多くの場合が上司でした。しかし、上司のアドバイスには、過去の成功体験に基づくケースがあります。過去の成功も大事ですが、そのまま当てはまるとは限りません。設計した商品の根底にある思いや考え方、そして幅広い販売事例を学び、それを拠り所にすることで新しいやり方を自分で模索できるようになります。

井上 正解やノウハウを教えるのではなく、ブレない思いや考え方を伝え、新しい時代に合わせてどう自分たちが進化できるかを考える土壌を作っているのですね。

白川 損保ジャパン大学の参加者からは、「お客さまを考えると、保険一辺倒だけではなくこれまでできなかった提案もできるようになりたい。もっと勉強してお客さまのためになりたい。」というアンケートの声もありました。

まだ始まったばかりですが、お客さまへの提供価値を向上させるためにもっと学びたいという意欲や学ぶべきことを考える雰囲気ができたことは手応えとして感じています。誰かに強制されるのではなく、自主性をもって参加することが目指すべき方向であり、試行錯誤しながら進めています。

井上 我々も、サイエンスと社会を繋ぐブリッジコミュニケーターをどのように育成していくかを体系化した「リバネスユニバーシティー」を2021年5月に開校します。そこでは、今の社会課題や最先端技術について知識として学んでいくほか、「コミュニケーション」や「プレゼンテーション」について徹底的に議論します。

先人のノウハウやスキルを教えるのではなく、コミュニケーションやプレゼンテーションのあり方や、それらを手段として、自分が何を伝え、何を成し遂げたいのかを常に問いかけています。これからは、正解を学ぶのではなく、何のために学ぶか、何を学ぶかを明確にし、自ら答えを見つけていくことが必要だと考えています。

創業のDNAを受け継ぎながら異なる人たちから学んでいく

井上 貴社は今年で創業133年目になります。組織が133年続くために必要な人材育成とはどのようなものと考えますか。

白川 1つは、明治から続く、「人のために」「やり抜く力」という当社のDNAを継承することだと考えています。

例えば、私が入社した安田火災の前身である東京火災は明治26年に、お客さまを24時間365日体制で火災から守るという目的で、私設消防団「東京火災消防組」を設立し、当時の警視庁から正式に認可されていました。サービス自体がデジタルなのかアナログなのかは別として、このような「人のために」「やり抜く力」を継承していきます。これは損保ジャパン大学の中で、思いやコンセプトを徹底的に伝えていく活動と繋がります。

そして、もう1つは自分と異なる人たちから異なることを学ぶということです。これからの学びは、昔からある知識や本に書かれていることに加えて、業界が異なる人と意見を交わしたり、違ったものを学ぶことが大事です。その時に、価値観が違った人からものを学ぶ素養があるかというのも重要であると社内では伝えています。

井上 異なる人たちからの学び方を学ぶ、ということですね。これからベンチャーとの協業を進めていけば、そういう方々からもパッションを受け取ることもできるかもしれませんね。

白川 これからのことを考えると、デジタルの力が必要です。一方でデジタルはツールであり、文房具のようなものです。ツールとしてどう使うかの前に何を成し遂げたいのかを考える。そういった時に、独創的で創造性豊かなアイデアが社員から自由闊達に出てくるようにしていきたい。そのためには、DNAに立ち戻ることと異なる人たちから新しい知識やパッションを取り入れること。手探りではありますが、私自身も、さまざまな人に会って得たことから学んでいます。

井上 創業からのDNAの継承と異なる人たちから新しい視点を学ぶ学び方が重要なのですね。これまでの会社の歴史からも、「人」が重要であることは変わらないという柱があり、人間的な成長を促す土壌、そして進化する土壌作りが133年続く組織には必要なのですね。御社の「安心・安全・健康のテーマパーク」を作る挑戦と、走り始めた新しい人材育成の形が繋がっていくのが楽しみですね。

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