リバネスユニバーシティーコンテンツリバネスユニバーシティー始動 〜これから求められる人材とは?産・学の視点から読み解く〜

リバネスユニバーシティー始動 〜これから求められる人材とは?産・学の視点から読み解く〜

2022.03.09

いま人類の価値観は大きな転換点を迎えている。これまでの金融資本主義ありきの概念から、サステイナブルな社会の実現へと舵が切られた。我々の働き方も、一つの組織に従属することから、活動範囲を自分らが能動的に決める「個のネットワーク時代」に突入している。右肩上がりの経済成長期に重視されてきた、個人のスキルや生産性、効率を高めるための人材育成はもはや通用しなくなり、大部分はAI やロボティクスに代替されていくだろう。では、これからの社会において必要な「学び」とは何だろうか。

その一つの仮説として、2021年5月、リバネスでは、年齢・職業・立場を問わず、新しい概念理解やマインド・考え方を学び合う「リバネスユニバーシティー」を開校する。今回は、数々のスタートアップや大企業の経営を経験している理事陣と、アカデミアと産業界で活躍するアドバイザリーボードにお話を伺った。

多様な思考をデザインする学びの場

:まず学びの場を創るうえで忘れてはいけないのは、教育と人材育成は異なる概念である、ということです。人材育成とは、組織の戦略・戦術と同じく目的達成のための武器(スキル)を与える一方、教育は、新しい知識をつくる土台の考え方やマインドを醸成することです。日本ではこれまで教育よりも人材育成が重視されてきました。大学でも、英語教育やPCトレーニングなど、専門スキルの育成に主眼が置かれていますよね。それはそれで必要ではありますが、本来は、どんな生き方をしたいのか、何のためにそのスキルを身に付けるのかといったデザインが先にあるべきではないでしょうか。今ある仕事は卒業したらなくなっているかもしれないし、近視眼的に物事を考えてはいけません。

宇井:教育は後になって効果が現れることが多いため、区切られた期間の中でトレーニングを行う大学ではできないようなカリキュラムを開発して、定着させたいです。もともと私は大学在学中に介護ロボットの研究開発に取り組んでいて、製品化するためにabaというベンチャーを創りました。その後、大学の先生たちと一緒に、ものづくり・デザイン・経営といった専攻がばらばらの学生たちを集め、横断的なチームになって介護機器を開発する教育カリキュラムを5年間ほど実施していました。学生たちからは、「就職した後に、自分が所属する部署だけでなく、他の部署がどう考えているかという広い視点を持てるようになった」と嬉しい声をもらっていたのですが、残念ながらこのカリキュラムを遂行できる人材を創出できず大学の中には根付きませんでした。とはいえ就職後に明確な効果を表していたことも事実なので、教育には長期的な思考が必要だと思います。

林田:私は、日本、オランダ、ドイツの化学企業で事業のマメジメントや新規事業の立ち上げを経験してきましたが、想いはあるのに周りを巻き込んでいく方法がわからない場面が多々あります。そこにはやはり教育が必要なのだと思いました。東京農工大学でも教員として、経営戦略、イノベーションマネジメント、研究開発マネジメント、グローバルマーケティングを教えているので、そのノウハウも活かしてこうと思います。

山田:ベンチャーも教育の場になると考えています。私は東京工業大学で教員をやりながら、2015年にメタジェンという腸内環境を解析するベンチャーを始めました。実際にベンチャーをやってみると、自分の翼を広げられたという実感を持てています。だから、自分で会社を興し羽ばたいていく人をもっと増やしたい。今の大学の教育方針が、”規則に書いていないことはやってはいけない”、なので、学生は硬直化してしまっているのかもしれません。幸いにも私は丸さんと出会い、「勝手に会社を作っても良いんだよ」と教えてもらったので、とりあえず怒られてから考えようと、メタジェンを立ち上げてしまいました。学生にも、怒られてもいいんだ、というマインドを伝えたいです。

本質の理解は問いから始まる

:インターネットの発達により人類の情報格差が少なくなった一方で、物事の表層だけを見て”知った気”になり、本質を理解する力が衰えていると感じます。いまや小学生も大学生と同じことを話せるし、ネット検索だけでは、本当にそうなの?という疑問には応えられません。自分で課題を発見して、それを解決するためのテクノロジーを探し、実行に移すところまでいかないと、本当の本質は見えてきませんよね。

林田:企業の中では、いつの間にか新規事業を創ること自体が目的になってしまい、言われたことはきっちりやるけれども、真っ白いキャンバスには何も描けなくなっていると感じますね。

:私もよく「新規事業をつくりたい」という相談を受けますが、儲けたいから新規事業をやるのではなく、何が課題でどう解決できるのかをもう一度考えようよ、と伝えています。課題を発見する上で重要なのはまず知識のインプットです。日本にいると普段は意識しない世界の現状に目を向け、現地の方のリアルな言葉や経験から何かを感じ取ること。リバネスでは「蓄積」という言葉を使っていますが、本質を理解するまで噛み砕いて自分の中に腹落ちさせることが大事です。つまりそれが単なる情報ではなく「知識」となるのです。

林田:いまの企業には本質を理解するという段階が抜け落ちていると思いました。スキル教育に重きが置かれ、DX だ、効率化だ、と疲れはじめている。何でそれをやるのか?を教えて、考えさせる機関がありません。

:解雇して新しい人を雇うのではなく、今いる人にやり方を教えて変化を促すことが必要ですね。まさにリバネスユニバーシティーの役割です。課題とテクノロジーをブリッジして実際に行動してみるプロセスの中で、自ら情熱をもってやり続けられるのか、なぜいまその課題が重要だと考えるのか、常に自身の哲学を問われます。

山田:一方、大学のサイエンティストは、必ずしもみんなの課題を解決したい人ばかりではなく、純粋に「問い」が面白くてそれを追求している人もいます。その問いが結果的にイシューになり、1000に1つが人類の課題解決につながることがある。

:そういう大学の研究が知識の源泉になるので、非常に重要だと思っています。もっとプロデューサー人材が社会に増えていけば、アカデミアと産業界、科学技術とマネジメントの溝をブリッジし、お互いにとってより良い形がつくれるはずです。

プロデューサー人材が変革の速度をあげる

:社会を変えようと思ったら、間違いなくプロジェクトをデザインす る人や、プロデューサーが必要になりますよね。リーダーやマネージャーを育成する講座は世の中にたくさんありますが、前提として誰かが設定した課題を渡されるので面白くないんです。プロジェクトを立ち上げる前に、自分で課題を設定し、それを解決するためにはどんなプロジェクトをデザインするのか、どういう構造に仕上げるのかを総合的にプロデュースする知識製造人材が圧倒的に不足しています。でも、鈴木さんは自然体でそれをやっていますよね。

鈴木:ユーグレナの起ち上げから15年間、ずっと企業経営に携わりながら大学の特任教授なども兼務するようにもなって、産学連携・異分野融合がもたらす可能性を実感しています。いま私は個人的に、牡蠣養殖の会社や日本酒の会社を支援していますが、周りから見ると一体何がしたいのか訳がわからないと思うんです。でも自分の頭の中では全部つながっていて、キャンバスが描けているんですよね。

:私も専門は農学とバイオですが、AI や工学、ロボティクスなど多分野のスタートアップ・研究者と日々議論する中で、頭の中で独立していた事象がつながり始め、次第に、社会課題とアイデアがデザインできるようになってきました。講義にも、例えば、鈴木さんなら健康×サステイナビリティ、宇井さんなら介護×デザイン科学、という掛け算の発想を入れたいですね。

山田:大学では、プロデューサーを育てるという発想は全くありませんでした。

:だからこそ、大学の先生もトランスフォームしていきたいと考えています。大学の研究室とは別に、本当に先生がやりたい研究テーマを掲げて、一緒に研究資金を取りにいき、小学生から大人まで年齢・所属問わず参加できる研究ゼミを運営する。大学とか企業とか、大人とか子供とか、そういう枠を超えた研究を可能にするので、大学の概念を拡張することにもつながると考えています。

知識をアップデートし続ける

:教育と人材育成の両輪を回し、これらの概念を体系的に学ぶためのカリキュラムを開発しています。大きく3つの講座と実践的活動で構成されていて、世界の課題(ディープイシュー)を学ぶ講座とそれを解決しうるテクノロジー(ディープテック)を学ぶ講座、そして、ブリッジする考え方や手法を学ぶサイエンスブリッジリーダー育成講座があります。実践では、フィールドに飛び出し、自らの課題感をもとにプロジェクトを推進するゼミ活動を予定しています。そして、知識が3年で陳腐化する時代に突入した今、常に学び続けられるようにマイクロサーティフィケーション制度を導入します。

瀬々:テクノロジーは日進月歩なので、マイクロサーティフィケーションに年号をつけて、毎年受講できるようにすると良いですね。ここで学んだことはどんどん外部でも実践して欲しいです。今いる組織の中で自由にやれないなら、ここでやればいい。それくらいオープンな場をつくりましょう。単純な学び直しではないので、どういう仕組みにすれば人類の理解が進み、新しい概念をインストールできるのか、ここにいるアドバイザリーボード以外の方からもアイデアを募集して、一緒に考えていきたいです。

:リバネス自体も理解されるのに 20年かかりました。今回も走りながら体制やカリキュラムを考え、必要なコンテンツをどんどん実装していきます。私たちは大学を駆逐したいわけではなく、中等教育の仕組みも否定していません。コロナ禍で大学・企業のDX化が加速していますが、2021年はさらに組織のトランスフォームが進む時代になります。私たちが目指すのは、各組織が役割を担いながら、それぞれの特徴を横串でつなぐ調和型のユニバース(宇宙)です。今後、全ての大学・企業に考え方をインストールし、AI やロボティクスに代替されるであろう職業の人材を、社会に新たな価値を生むブリッジ人材へとトランスフォームさせていくことを目指していきます。

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