リバネスユニバーシティーコンテンツ組織の『生命力』は、 社外でこそ培われる

2022.12.01

組織の『生命力』は、 社外でこそ培われる

社員の元気がない、新たなものが生まれない、トップのメッセージが響かない…。いわば組織の『生命力』を培うためには、何が必要なのだろうか。業種も分野も異なる3社の組織のトップが鼎談した。キーワードは「外」「巻き込み力・巻き込まれ力」であった。

トランスフォーメーションする大企業

松原 本鼎談のテーマである「生命力」という言葉は、山田さんが内閣府「目指すべき市場経済システムに関する専門調査会」に提出された資料から引用させていただいています。その中で、日本の企業は生命力が弱っていると。

山田 私、学生時代から「生命」にとても関心がありまして、30年近く経営をやってきて「組織」もまさに生き物だなと。今、ますます日本の置かれてる状況が厳しくなっていますが、この逆境をしぶとくはね返すような、したたかさ、しなやかさ、生への執着、レジリエンスというものが非常に弱っているなと感じます。一人一人が学び前進し自分をより高めるためのエネルギーのようなものを、眠りかけた状態からもう一度かき起こしたい。誰が悪いじゃなくて、本当に、社員一人一人、日本の国民一人一人が、どうエネルギーをかき立てるか。そこが課題かなというふうに思っています。

松原 同資料では「既存の組織の過剰な保護」という言葉も書かれていて、それによって人も組織も甘やかされるだけで生命力が失われていくというようなお話がありました。これまで力強く産業基盤をつくり上げてきた日本の大企業でさえ、これからはトランスフォーメーションしないと通用しなくなるという、厳しくも挑戦できる時代になるのだと思います。この背景の中で、日本を代表する巨大企業として鉄道事業をやられてきたJR東日本さんが、今、トランスフォーメーションをしようとされています。

表 今から約5年前、ちょうど民営化から30年の年に、次の30年に向かって新たな成長に向けた変革を進めるためのビジョンを描きました。その後コロナが起こり2020年、鉄道の収入は大幅に減りました。しかしここで変革の手を緩めてはいけないと考え、2021年に「BeyondStations構想」を打ち出しました。駅そのものの在り方を、これまでの常識を超えてどんどん変えていく。その一つが、JREStationカレッジです。人の交流点である駅から人を育て、知識を生み出し、さらにビジネスを生み出して、それを世界に広げていく拠点になるんだというビジョンを掲げています。

髙橋 今、新しいコトを仕掛けようといったときに、最初の一歩を踏み出すときのハードルが、大企業の中ではすごく上がってしまっていると感じています。立場とか、現業のプロとしての経験や責任感から「失敗」を受容できなくなっている。そこを超えていくためには、リバネス自身が事業を立ち上げるプロセスの中で培ってきたマインドや仕掛け方のエッセンスが有効なんじゃないかと考えています。それは、異物への共感力と異物同士の組み合わせから生まれるはちゃめちゃな取り組みの中から新しい何かを生むということです。例えば、われわれの祖業である教育活動では、専門的なことも相手にあわせてわかりやすく伝えるブリッジコミュニケーションを子どもから学びました。また、もともと異分野の研究者15人が集まってできたリバネスでは、所属や分野関係なくフラットな状態で、互いの知識の混ぜ合わせから新たなものを生み出すことを自然とやっていました。

クローズドな組織のオープンイノベーションは偽物

松原 異分野の人たちが集まって、自分たちのアセットをうまく開放しながら新しいことを起こしていくという場は、これまであまりなかったのではないでしょうか。

髙橋 オープンに社外の人と話す訓練というのは、案外皆さん、経験がないのかなと思います。でも、例えば2050年カーボンニュートラルで掲げられた目標は、一つの企業が一つの技術で達成できるようなものではありませんよね。それが前提のはずなんだけど、新しいプロジェクトやアイデアを、うまくいくか分からないけど試してみるためのディスカッションというのは結構、難しくて。短期的な自分の組織の利にばかり目が向いてしまう。せっかくアイデアを生み出せたとしても、周りから穴を指摘されるのを恐れて、人に話すのが恥ずかしいとか。そういうハードルを下げながら、互いの懐に飛び込み合える場所が今こそ必要ですよね。

表 鉄道は、絶対に失敗が許されない事業です。ところが、われわれが高輪ゲートウエイの新たなまちづくりでやろうとしているのは、まさに壮大な実験場ということで、100年先を見据えた心豊かなくらし、便利なくらし、安心できるくらしを実現するために、挑戦したい人たちにどんどん挑戦していただいて、失敗から学びながら育てていく。そんな街をつくろうとしているんですね。そういう場所を提供することで、JRとしてもサポートできるんじゃないか、そんなことを考えている最中です。

松原 ロート製薬さんでは社外との共創でさまざまなチャレンジをされていると思うのですが、今はどのような仕組み、組織づくりをされようとしているのでしょうか。

山田 人がオープンにつながるのはもちろん良いことです。ただ、企業自体がクローズしたままの会社が結構あるんですよ。クローズドな組織がいくらオープンといっても、それは偽物のような気がするというのが正直なところです。今までの日本は、企業が発展すれば国も豊かになる。さらに言えば、東証の時価総額が上がれば国がうまくいくというモデルでした。しかしこれはもう、間違っているのであって。僕が「生命力」と言っているのは、個々の生命力というよりも、むしろ生態系としての生命力が大事だと思うんですね。例えば、ライオンが自分の種を強大にすることのみを考え始めたら、生態系は破壊されます。人間はそれをやったから、今、こうなっているわけです。同様に、大きな企業が、わが社を発展させるためだけの行動を取ると、社会としてそれはむしろ破綻する。だから、企業に縛られてはいけない。わが社が強くなるためにオープンイノベーションだと言っていたら、絶対、うまくいかない。それより、むしろ人材をどんどん企業から送り出して、結びついていかないと。社員をがっちり抱えたままオープンにやれといったって、それは無理ですわ(笑)。オープンイノベーション、コラボレーションと言われていますが、一企業を成功させたいが故であるならば、僕はむしろだめになるような気がします。

巻き込み力と巻き込まれ力が生命力を高める

表 JREStationカレッジでは、他の会社の人と話して、改めて自分たちの価値やアセットに気付かされたり、企業同士のアセットの組み合わせによって、「実はこの課題を解決につなげられる」というのが見えてくるじゃないですか。そして、自分の心の底からやりたいという情熱が出てきて、会社でもこんなことができるかもしれないと、他の人にも伝わるようになって、さらに情熱が増す。ここではマインドの年齢が若返るような気がします。

山田 それが生命力になれば、組織も吸収して進化する。体はなかなか若返りが難しいけど(笑)、精神の若返りというのはある意味、可能なのかもしれませんね。

髙橋 今の僕に生命力の源があるとしたら2つ。一つは、身近にベンチャーを経営するアントレプレナーがいること。やはり彼らの情熱に触れて、ほだされて、自分も学びやがてそれに憑依していくという、新しいことを仕掛ける連中の世界の中にいるというのが、僕にとって大きな学びになっています。もう一つは、「巻き込まれ力」だと思うんです。要は、分からないこと、新しいことがたくさん持ち込まれる。「やらない理由はいくらでも並べられるけど、やってみようか」と思えるかどうか。自分が発想したこともなく、現業とも離れたアイデアに巻き込まれにいく力には、共感力も情熱も必要だし、リスクをとる覚悟も必要じゃないですか。でもそれはやがて、自分にやりたいことができたときには巻き込む力とネットワークになる。それが結果として生命力、チャンスを広げていくのではないかと思います。

松原 これからは、自分の会社のしきたりとか枠組み、今の常識を一回忘れてみて、一人一人が個のネットワークをつくり、一人一人がビジネスを興すプロセスを経験していく、そういう仕組みが重要なのではないかと思います。その中で、会社が持っているアセットを、お互いに提供し合いながら本気で課題解決に向かって進んでいくという行動によって、生命力が培われ、人は変わると信じております。今日は貴重なお話をありがとうございました。

(構成立花智子)

登壇者プロフィール

モデレーター
松原 尚子 株式会社リバネス 執行役員CBO

修士(農学)。研究開発から経営管理、地域開発、教育開発など多様な事業分野を経験し、2012年より執行役員に就任。大手企業や地域中核企業のアセットを活用したプロジェクト開発やベンチャー企業の研究開発・事業開発のサポートを担う。また、経営企画室にてブランディングや人材育成の企画開発を担い組織の基盤強化と価値向上にも取り組む。

山田 邦雄氏 ロート製薬株式会社 代表取締役会長

1956年大阪府生まれ。1979年、東京大学理学部物理学科卒業。1990年、慶應ビジネススクールMBA(経営学修士)取得。1980年ロート製薬入社。1991年取締役就任、1996年代表取締役副社長、1999年代表取締役社長を経て、2009年に代表取締役会長兼CEO就任。2018年より現職。目薬、胃腸薬、外皮用薬にとどまらず、2000年以降は本格的にビューティー関連に領域を広げ、幅広い商品開発を行う。2013年からは、再生医療、アグリ事業など新しい分野へも挑戦。再生医療研究企画部を新設し、再生医療ビジネスの推進を行っている。

表 輝幸氏 東日本旅客鉄道株式会社 常務執行役員マーケティング本部副本部長

1988年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。同年、東日本旅客鉄道(株)入社後、ホテル、住宅、新規事業開発等に従事。2000年(株)日本レストラン調理センター社長にグループ最年少で就任、その後(株)日本ばし大増、(株)紀ノ國屋のM&Aを手掛けるとともに、東京駅グランスタ開発等を牽引、事業創造本部開発・地域活性化部門長を経て、2011年(株)ルミネ常務取締役に就任、専務取締役を経て、2016年執行役員事業創造本部副本部長に就任。2021年より常務執行役員。2022年組織再編により現職。

髙橋 修一郎 株式会社リバネス 代表取締役社長COO

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士(生命科学)。リバネスの設立メンバー。リバネスの研究所を立ち上げ、研究支援・研究開発事業の基盤を構築した。これまでに「リバネス研究費」や未活用研究アイデアのプラットフォーム「L-RAD」など、独自のビジネスモデルを考案し、産業界・アカデミア・教育界を巻き込んだ事業を数多く主導している。2010年より現職。2022年より株式会社リバネスキャピタル代表取締役。

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