ユーグレナ・出雲充氏×リバネス丸幸弘「大企業こそ、自社アセットを活用しサステナブルビジネスを始めよう」
2022.02.27
株式会社リバネスと東日本旅客鉄道株式会社は、2021年10月より、東京駅キャンパスにて、課題発掘型リーダー育成講座「JRE Station カレッジ」を開講します。そのキックオフとして、9月15日に特別講義として株式会社ユーグレナ代表取締役社長・出雲充氏と株式会社リバネス代表取締役グループCEO・丸幸弘によるトークセッション「大企業こそ、自社のアセットを活用したサステナブルビジネスを始めよう」をオンライン開催しました。ここでは、その抄録をご紹介します。
「株主資本主義」から「マルチステークホルダー資本主義」に
丸 今回スタートするJRE Station カレッジのコンセプトの1つはサステナブルビジネスです。そこで、今日は開講に先立ち「大企業こそ、自社のアセットを活用したサステナブルビジネスを始めよう」というテーマでお話ししたいと思っています。トークセッションのお相手として、まさに『サステナブルビジネス』というタイトルの本を刊行された出雲さんに今日はお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。
出雲 はい、よろしくお願いします。2015年に国連がSDGsを採択したとき、「今さら何を言っているんだ。日本には江戸時代から『三方よし』という思想が根付いているんだ」という声をよく聞きました。国連からアレコレ言われなくとも、日本人は昔から世の中全体のことを考えて商売をしている、と。ただ、江戸時代はどうであれ、今の日本企業にその思想が実態として受け継がれているかというと疑わしいですよね。であれば、我々も本気で取り組まなければならないと声を大にして言いたかったんです。
丸 誤解を恐れずにいうと、多少、地球環境を悪化させるようなことをしても、それによって得た利益の一部を社会に還元すれば許されるだろう、みたいなところが日本にはありますよね。
出雲 でも、グローバルに見たら、そんな言い分はもう通用しません。自分たちが儲けるために地球環境をないがしろにするのは許されることではないんです。
丸 そういう意識はむしろ日本のほうが遅れていると?
出雲 米国のある調査会社が大学生を対象に「資本主義は信頼できるか」というアンケートを毎年行っているんですね。資本主義の総本山のような米国の学生ですから、当然、「YES」が多数を占めると思いきや、そうではないんです。リーマンショックの頃から「信頼できない」という回答が半数を上回るようになっています。自分たちの利益だけを追求する金融資本主義にどっぷり浸かっていると、いずれ世界経済は破綻しかねない──。米国の若い学生たちは、とっくにそのことに気づいているんです。
丸 米国の企業人はどうなんでしょう。
出雲 丸さんもご存知だと思いますが、2年ほど前、米国の経団連ともいえるBusiness Roundtableが、従来の企業経営の原則ともいえる「株主資本主義」を批判し、これからは「マルチステークホルダー資本主義」に転換しなければならないと宣言しました。 自社だけ儲かればいいという考え方を明確に否定したわけです。若い学生たちに比べたら少し時間を要しましたが、企業経営者たちの意識も確実に変わりつつあります。今回のコロナでそうした動きはさらに加速するでしょう。
「サステナビリティ」と「ビジネス」は両立できる
丸 日本もそれこそ「三方よし」の精神に立ち返る必要があると?
出雲 これからは儲かるかどうかでなく、持続可能かどうかという視点で考えなければならないということは日本人もわかっていると思うんです。ただ、企業人である限り、利益を出さなければならないわけで、今は地球環境うんぬんより利益を優先せざるをえないという人が多いのではないでしょうか。
丸 その根底には「サステナビリティとビジネスは相反するもの」という意識があるんでしょうね。その2つを両立させるのは難しいと考えている人が多い。
出雲 そこなんですよ。両立させるのは難しいという気持ちはわかります。でも、決して両立できないわけではありません。なのに、みんなハナからできないと諦めている。私はそんな空気を変えたいんです。
丸 実際、出雲さんの会社では両立させていますね。
出雲 私たちユーグレナは「アジア最貧国の1つであるバングラデシュの栄養失調の子供をゼロにする」「 CO₂を排出しないバイオ燃料によって飛行機を飛ばす」という2つの目標を掲げていますが、どちらのプロジェクトもすでに大きな成果を上げています。前者は栄養価が豊富な「ユーグレナ」入りのクッキーを大勢の子供たちに届けていますし、後者はバイオ燃料の開発を成し遂げ、フライトにも成功しています。
丸 出雲さんの新著には、それらの取り組みの詳細が書かれていますから、視聴者の皆さんもぜひお読みになってください。それはともかく、なぜ日本ではサステナブルビジネスへの転換が進まないのかというと、1つはやはり企業教育のせいだと私は思うんです。いまだに多くの企業は「どうしたら利益を生み出せるか」を主眼とする研修をメインにしている。30年、40年前と何も変わっていないんです。
出雲 それは大きいでしょうね。だからこそ、今回JR東日本とリバネスがサステナブルビジネスを学ぶカレッジを開校したわけですし。ただ、それ以前の問題として、新しいことを学ぶという姿勢が日本人には欠けているように私は思うんです。今の大学生って、1週間にどれくらい勉強しているか知ってますか?
丸 どうでしょう、かなり少ないんでしょうね。
出雲 驚くなかれ、「0時間」なんですよ。これはOECDが加盟37カ国の大学1年生を対象に実施した調査結果なんですが、その調査は勉強時間が1時間以内の場合は0時間とカウントするんです。そのせいで、日本の大学生は0時間になっています。実際には少しは勉強しているのでしょうが、それにしても週1時間に満たないわけで。それを知って暗澹たる気分になりました。ちなみに米国の大学生は6時間。アイビーリーグの学生に限ると13時間勉強するという結果が出ています。
丸 大学生が0時間だとしたら、ビジネスパーソンは推して知るべしでしょうね。
出雲 今日、視聴していただいている方々は普段から本を読んだり、スクールに通ったりして勉強されていると思うんです。でも、そういうビジネスパーソンは一握りに過ぎないでしょう。
丸 そもそも日本企業って学ぶ機会が少ないですよね。
出雲 米国の大手企業は、従業員の能力開発に相当な投資をしていますが、日本企業はほとんど投資していませんから。これはある調査結果から推定される金額ですが、従業員1人あたりにすると年間投資額は5万円程度らしいです。たとえ学びたいという意欲があっても、会社に期待にすることはできないのが実情なんです。
丸 年間5万円ですか。
出雲 日本はこの20、30年の間に、世界のトップから普通の国へとポジションを下げてしまいました。平成が始まった頃は、1人当たりのGDPや競争力ランキングなどあらゆる経済指標で世界1位に君臨していましたが、今や中堅国にも追い越される始末です。1人当たりの労働生産性でいえば、お隣の韓国はもとより、債務危機にあるギリシャにも抜かれてしまいました。どうしてこんなことになったのか。いろいろ理由はあるでしょうが、私は日本人が学ばなくなったことも大きな要因だと思っています。企業も個人も目の前のことでせいいっぱいで、将来を見据えて学ぶということをすっかり忘れてしまった。これを変えない限り、この国に活力が戻ることはないのではないでしょうか。
大企業が持つアセットをいかに活用するかがカギ
丸 今日は「大企業こそ、サステナブルビジネスを始めてほしい」というテーマなので、大企業の役割というところに話をもっていきたいと思います。私は長くベンチャー企業の育成に関わってきたのですが、大企業に対してうらやましいという気持ちを常々抱いていました。なにしろ持っているアセットが我々とはケタ違いですから。ベンチャーやスタートアップの何十倍、何百倍ものリソースを有している。だから、その資産を活用して、積極的にサステナブルビジネスに取り組んでほしいという思いがあるんです。
出雲 今回のJRE Station カレッジでは「課題発掘型リーダーを育成する」というコンセプトも掲げています。つまり、自ら課題を探し当て、それを解決するためのチームやプロジェクトを結成し、そうして課題解決まで導ける人材の育成を目指しているわけです。そこで思うのですが、少なくとも日本のような先進国の場合、我々が日々の暮らしの中で直面するようなシンプルな課題はほとんど解決済みなんですね。残っている課題は、どこからどう取り掛かったらいいかわからないような、複雑でやっかいなものばかりです。言い換えれば、誰か1人のアイデア、あるいは1つの企業が持つリソースで解決できるようなものではないんです。
丸 我々のようなベンチャーが単独で取り組んでも解決するのは難しい?
出雲 そう、他社との協業なくして解決するのは難しい時代になっています。そういう意味でも大企業の力が必要になっているんです。
丸 私たちは大企業の方に協力を依頼することもあるのですが、「うちは機械屋だから」「素材屋だから」と断られることがよくあります。専門外だからお手伝いできないと。でも、出雲さんがおっしゃるような「複雑でやっかいな課題」は、一見まったく関係がなさそうな、異分野の知識や技術が生かされることが多い。だから、大企業の方々には専門かどうかにはあまりこだわらなでいほしいと言いたいですね。
出雲 自分たちでは「機械屋」と思っていても、ハタから見たら「機械屋」には思えないということもよくありますしね。
丸 実際、彼らにとっては重要でも何でもない技術やアイデアが役立つということがよくあるんですよ。例えば大企業だと、何年も前に開発したけど、本業で活用できないために放置したままになっている技術とか、けっこうありますよね。でも、それが私たちが進めているプロジェクトにうまくハマったりするんです。
出雲 そういう意味では、大企業に勤めている人は、自分たちがどんなアセットを持っているのかを一度、整理してみるといいでしょう。陽の目を浴びることなく埋もれていた技術が、新しい課題の解決に役立つということもあるかもしれません。
丸 私はベンチャー側の人間なので、ベンチャー目線で考えてしまうんですね。我々ベンチャーが先陣を切り、局面局面において大企業に援護射撃をしていただきたいと。でも一方で、大企業が主体となってサステナブルビジネスに取り組んでほしいという思いもあります。そのときは我々もお手伝いしますので。
出雲 大企業、ベンチャー、それぞれの役割を固定化する必要はないし、いろんな形があっていいと思います。ただ、それぞれの特性や得手不得手を考えると、ベンチャーが先頭に立って、未知の領域に踏み込んでいく。そしてある程度、道筋ができたら、大企業に参画してもらって社会に広げていく。そういった形が理想なのかなと私は思います。
大きな声で話して周りの人を巻き込んでいく
丸 もう1つ、出雲さんにお伺いしたいことがあります。出雲さんはバングラデシュに出向いたとき、子供たちが深刻な栄養失調に悩まされていることを知り、それをきっかけに「ユーグレナ」の開発に着手したんですよね。そしてその開発に成功し、バングラデシュの子供たちに笑顔をもたらすに至っている。バングラデシュを訪れ、問題意識を持った人は大勢いると思うのですが、誰一人、そんなことはできませんでした。なぜ、出雲さんはできたのだと思いますか。
出雲 例えとしてふさわしいかどうかはわかりませんが、米国がジョン・F・ケネディの時代に人類を月まで送り届けることができたのはなぜだと思います?
丸 人類が月に降り立つことができたらスゴいと誰かが言い出して、周りの人間が「それはおもしろい、やってみようじゃないか」と話に乗った。それが国民の間に広がり、国を挙げて熱狂するに至ったから、でしょうね。国民の後押しがなければ、実現できなかったと思います。
出雲 それと一緒ですよ。私は「バングラデシュの子供たちを救いたい」とあちこちで話しまくったんです。実際にどうすればいいかはわからなかったけれど、会う人会う人に話しました。そうしたら多くの人が共感してくれて、協力してもらえるようになったんです。それで、実現にこぎつけることができました。
丸 つまり、言葉にして発信することが大事だと。
出雲 私は『論語』が好きなのですが、論語の中に「辞は達するのみ」という言葉があります。どんなに優れた考えを持っていても、周りの人々にその意味を伝えなければ何も始まらないということです。何か目的を抱いたら、まずは周りの人に伝える。たとえ何の反応を得られなくても伝え続ける。それが第一歩だと思います。
丸 そうやって周りを巻き込んでいくわけですね。
出雲 その際、心得ておきたいことがあります。誰に対しても「大きな声」で話すということです。というのも、やはり声が小さいと聞く気にならないんですね。しかも、自信がなさそうに見える。だから、何を話しても心に留めてもらえない。大きい声で話すと、自然に人が集まってくるし、強い印象を与えることができるんです。
丸 私はずいぶん昔から出雲さんのことを知っていますが、確かに昔はこんなに声が大きくなかったかもしれません(笑)。
出雲 大きな声で話したほうが聞いてもらえると思って、訓練したんです(笑)。
丸 でも、私も出雲さんがおっしゃる通りだと思います。今日、視聴されている皆さんも、大きな声で話しても何も変わらないだろうなどと思わず、ぜひ試してみてください。
出雲 試してみると必ず実感できるはずですよ。
丸 そろそろ時間なので、今日はこのあたりで締めさせていいただきます。出雲さんにはいずれ講師も務めていただきたいので、これからもよろしくお願いします。
出雲 もちろんです。私も、東京の中心といえる東京駅でサステナブルビジネスを学ぶカレッジが開校するとあってワクワクしているんです。ここから何が生まれるのか大いに楽しみにしています。